あついですね。(かえみず/デレマス/R-18)

『家のクーラーが壊れました。家行っていいですか。』

AM9:00きっかしに図ったように来たLineメッセージ。彼女のことだから私のオフを把握しての行動だろう。もう一つ言わせてもらうと、『家に行っていいですか。』は疑問系でないのも気になる。ツッコミどころの多いメッセージだが、そこにミステリアスな彼女らしさが滲み出ていて、少し笑みが溢れてしまう。
天気予報では今日は初夏を感じさせる気温らしく、30℃を超える地域もあるとか。紫外線は注意しなきゃいけないと頭が警鐘を鳴らす。以前の職業柄、朝のニュースは欠かさずチェックする。いつも情報は取り入れておきたいし、大人として知っておくべき知識は知っておきたい。それに、私はちょっとした深夜のアイドルの司会や情報番組の出演も任されてるのだから28として恥がないようにしたい。アイドルはおバカさんばかりというイメージを払拭しないとね。
一方であの子は全くそういうことは気にしない。そういう知識や小手先の技術がなくても、あの子は絶対的に特別な存在だ。持って生まれたものが優秀すぎて、何もしなくても他人を引き寄せてしまうスター性、カリスマ性が元から備わっている。初めはそんな彼女の圧倒的な才能に素直に受け取れなくて少しキツく当たった時もあったけど、だんだん彼女の中身の可愛らしさ、素直さ、性格の良さ、何より実は誰よりも努力家のところに気づいて、それを含めてのこのカリスマ性とオーラなのだ、と気づくともう高垣楓の存在を認めざるを得なかった。

『いいけれど、日傘ぐらい差して来てね』
『はぁい』

あの白い肌にシミを残したくなくて、つい一言付け加えてしまう。向こうの方が美容の知識はあるのに。これは性格か、治らない気がした。

「楓ちゃんが来るまで洗濯物を干さないと!」

そのラインが来てから、1日が彩りを帯びたように感じた。

「はぁ、涼しい」

私のアパートに来るや否やクッションの上に溶けるスター、高垣楓。可哀想に。背丈は大きいのに母性をくすぐらせるこの子を労わって氷の入った麦茶を出してあげることにした。私もご多分に漏れずこの子に甘い。

「外暑かった?」
「暑いですよ〜」

麦茶をテーブルに置くと、ゆっくりと起き上がって、楓ちゃんは柔らかい髪の毛を耳にかけながらストローを咥える。ただ座って、飲み物を飲むだけで絵になる。滴る汗も何故か輝いて艶っぽく見える。本当に生きてて得しかないような綺麗な顔してるわねぇ、と見るたびに感じる。この子を素直に受け入れることができたのはある程度歳取って、外見以外の、自分に対しての余裕と自信が出た後だからだ。

「ふふっ、どうしたんですか、瑞樹さん」

他人から視線なんて生まれてから慣れてる癖して、他人の視線に敏感な彼女は当然のように私のそれに気づく。

「もしかして私に見惚れてました?」
「ふふ、調子乗らないの〜」

自分の美貌に当然気づいている(当たり前だ25年も生きているんだから)憎たらしくも愛らしいその鼻を摘む。

「きゃー」

ふざけながら笑いあう。ああ、もう一個、高垣楓には最大の武器がある。彼女の笑顔は最高級に可愛い。誰もが視覚から軽く心を掴まれる。もちろん私も。楓ちゃんの細く長い指から麦茶の入ったコップを奪い取る。私の動きを察した楓ちゃんは弧を描いた青と緑の瞳で私を映しながら微笑む。軽く麦茶を飲み、少し自分の喉を潤した後、白い頬をひと撫でして彼女の形のいい唇にキスをする。楓ちゃんの白く細長い喉がコクリと動く。麦茶味。お互いなんとも素朴な味がツボになって、見つめ合って笑い合う。

「麦茶だけに、ムードがむちゃむちゃだっちゃ」
「色々スランプね、楓ちゃん」

私の一言に一気に憂いを帯びた楓ちゃんの柔らかい髪を軽くといて立ち上がる。

「楓ちゃん何食べたい?」
「お酒に合うもの、ですかね」
「もう、お昼から飲む気?」
「ダメですか〜?」
「ダメよ」

むくれる彼女は童顔もあって、幼く見える。本当に可愛らしい子。もう一度ついばむようなキスをして、立ち上がりキッチンに向かう。冷蔵庫の中身を確認して、簡単にできる豆乳入れた担々麺でも作ることに決めた。フライパンに火をつけて豚のひき肉をニンニクと炒めて醤油で味付けする。ジュワッという音と香ばしい香りに釣られたらしい、楓ちゃんが寄ってくる。

「瑞樹さん」

甘く、綺麗な声が後ろの高い位置から降りかかる。仄かに匂う香水の匂い。背の高い彼女から抱きしめられる。首筋に鼻筋の通った鼻を擦り付けられる。

「ちょっとぉ」

細い腕がエプロンとTシャツの中に入っていく。咎める声をこの悪戯好きな25歳児に放つが、動きを止めない。

「うふふ」
「ちょっと、あっ」

掌は胸に辿り着いて、楓ちゃんはナチュラルに揉み始める。こんな綺麗な顔をしていて、実は中身はおじさんな彼女は私の特にこの部分が好きらしい。

「もーやめなさいってば」
「やーだぁ」

怒るのも何だか面倒で放っておくと、だんだんエスカレートしてくる。たまに人差し指で乳首を弾かれて微かに震える私の反応見て更に楽しんでるのだ。耳元で囁かれる、

「好きですよ、瑞樹さん」
「胸が、でしょ?」
「おおむね」
「バカ」

好き勝手やってるけど、楓ちゃんが笑ってくれる(?)なら胸ぐらい差し出してもいっかと思うところはやはり自分は関西人なんだろうか。いや、楓ちゃんバカか。

「出来たわよ、担々麺。もう、暑いから離れなさいよね」
「はぁい」

楓ちゃんの体が離れて私はホッと一息をつく。私が火を消した瞬間、一気に引っ張られて、キスされる。唇の無味の感触が口に広がる。楓ちゃんの唇は氷菓子のように甘くて感触が良く癖になる。

「ん、はぁ、あっ、ダメ、よ、」

私の抵抗をするりと抜けて角度を変えて何度も何度も。キスが好きな彼女は飽きずにずっとキスし続ける。

「瑞樹さん、ごはんはあとです、軽くしますよ〜」

また、疑問形じゃないのね。いつもこの年下にゆるりとペースを持っていかれる。私の弱い耳を噛みながらその気にさせるのだ。

「だ、ダメよっ!」
「ダメじゃない〜〜」

抵抗しても無駄みたい。楓ちゃんの冷たい手が下に降りて行き、私は首筋から背中に汗が流れていくのを感じながら目を閉じる。ああ、もう、暑いわねぇ。

「暑いですね」
「そうね〜」

その後、結局2回ぐらいしてから、お互いシャワーして伸びた豆乳担々麺を食べた。今度はこういう雰囲気に持ち込まれそうな時は麺類は止めようと反省する。

「午後出かけませんか」
「そうね〜、人多そうだけど、せっかくのGWだものね」
「ふふ、そうしましょ。」

あ、お酒飲みたそうな顔をしてる。幸せそうな彼女の顔は長く側にいたからか、最近何考えているかわかるようになった。少し嫉妬するけれどお酒のこと考えたり、飲んでいる彼女はいい表情をするのだ。

「楓ちゃん」
「はぁい」

少し近づくと同じ甘いシャンプーの匂いがした。左右違う色の綺麗な目と目が合うと、お互い笑い合い、どちらかともなくキスをする。

「好きよ、楓ちゃん」
「キスだけに?」

またムードが台無し。私は彼女の額にデコピンして笑う。彼女も額をさすりなが笑顔を私に向ける。彼女がいるだけで、生活が彩って、華やかになる。

「高垣楓は不思議ねぇ」
「なんですかぁ、私にとっては川島瑞樹さんは不思議ですよ〜」
「なぁに、それ」
「ふふ」

スターだろうが関係ない。オフの高垣さんは私にとって、居心地いいのだ。

2017年5月2日 pixiv掲載

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA