鶴頂紅(艦これ/翔加賀/#3)

#3 恋慕と嫉妬

✳︎

翔鶴が私に初めて噛み付いた事があってから、私は五航戦に歩みよろうと決意した。思えば、あの子達の将来性を羨望するあまりいずれ用済みになる自分を予知してしまい、恐れと嫉妬を抱いていただけだ。あの子達自体罪はない。少しは客観視出来るようになり、その事実を充分理解できるくらいには私は凡庸だった。搭載数は空母一であるが、私にはそれ以外に特に秀でた才も華もない。赤城さんや、五航戦のような特殊な才能も機能性、豪快さもない。不安を幾ばくか和らげる努力だけが蜘蛛の糸のように第一線に繋がっていただけなのだ。初めから自分は。自分の役割を出来うるだけ精一杯果たしているはずだ。これで用済みで解体されるならば、それこそ自分の寿命なのだ。その解体されたパーツは新たな生命と戦力を生むのだ。そう何度も何千回も言い聞かせた。

「五航戦」
「あ、加賀さん」

瑞鶴に声をかけると怯えたような顔を浮かべられて少し罪悪感を抱く。

「手を出して」
「え、え?これ。折り鶴?」

「加賀さん、凄い!2匹が羽と羽で繋がってる!これって」
「ええ、連鶴。あなた達のことよ」

連鶴。一枚の特殊な折り紙を用いて、羽と羽が繋がった2羽の鶴を作った。初めて瑞鶴の輝いた大きな目を見て妙な満足感を感じた。初めからこうすれば良かった。私は自分の素直のなさを恥じた。瑞鶴は走って実姉のところまで行く。ねー!翔鶴姉!加賀さんが!加賀さんが連鶴をくれた!!
その興奮した無邪気な声にふ、と口元が緩む。満足げに自室に戻り航空甲板の塗装をしていると、不意に小さくて白いものが部屋を侵入し裾を軽く引っ張られた。

「どうしたの?」

翔鶴だった。相変わらず人見知りが激しくて白い顔が微かに紅い。その人見知り娘が物を言わず先輩の部屋に入り込むのは奇妙だ。

「私も」
「?」
「私も、欲しいです、鶴」

ああ、成る程。
この子にも子どもらしさが見えて安堵する。

「あぁ、折り鶴のこと?そうね、あれは丁度鳳翔さんから特別な折り紙を一枚貰ったから作ったのだけど。今きらしてるの。だから、あれは、あなた達2人のだから2人のものにしなさい。」

冷た過ぎただろうか、一瞬そう思った。しかし鶴姉妹は仲がいい。きっと喜んで共有するだろう。翔鶴は少し表情を暗くしたが、素直に頷いて瑞鶴の元へ走る。私はそれに安心して気を止めなかった。それが、いけなかった。
この時初めて仲のいい鶴姉妹が大喧嘩をしたのだ。瑞鶴の泣き声が寮中に響き、何事かと他の先輩空母共々二人部屋の障子を開く。まず眼が合ったのはその泥のような眼。

「かがさん」

ゾクリ、と背筋が凍る。これは、赤城さんを見たときと同じ威圧感。翔鶴の声。

「何やってるの?」

地獄だと思った。側で瑞鶴が酷く泣いている。右頰が腫れている。右手も強く握られた赤い跡がある。翔鶴の仕業であることは明らかだ。翔鶴はその双眸に私を映して無垢にも微笑んでいる。手には二つに破り裂かれ二羽となった連鶴。

「瑞鶴が渡さないと言うから」

私は戦慄を覚えた。直ぐに瑞鶴を宥めて、後で高級な折り紙を買い、2人分の紅白鶴を折って、それをそれぞれ渡した。


✳︎

齢は14になった。精神不安定なまま戦場に駆り立てられたからか、赤城さんとはお互いに肉体的に求め合うようになった。
理由はわからない。男女の概念や生殖機能がない私達は性行為の意味はないはずだ。もしかしたら、極度のストレスが性的反動として昇華されたのかもしれない。
赤城さんはよく私を痛みつけるように抱いた。噛み付いて、引っ掻いて、首を締めて。ひどく焦燥した顔で、ひどく興奮した顔で。私はただ優しく抱きしめる。大丈夫だ、問題ない、というように。赤城さんはいつもそれに安心するようだった。もしかしたらどんなことしようが私は付いてくることを証明したかったのかもしれない。そうすることで、赤城という絶対的な存在意義を見出したかったのかもしれない。歪んでいるが、絶対的な存在と崇められた者の特権なのかもしれない。

「翔鶴って綺麗よね」

私は果てて、ぼんやりと微動だにせずひっくりかえった虫のように天井を向いていると、横で無機質な言葉が上がる。

「何を」

翔鶴、という言葉に自然と反応して横目で濡れた指を拭いている赤城さんの姿を映すと、クスクスと笑われる。腰まで露わになった赤城さんの肌は白く滑らかでうつくしい。触っても瑞々しく、ひどく柔らかい肉の感触が良いのだ。まるで、戦闘機でなく芸術品として生まれたような美しさだ。これ程の美女は私が生きてる中で彼女以外に知らない。

「ねぇ。翔鶴の訓練を私に任してくれない?」
「なぜ?」

私の声に不満が含まれる。いくら赤城さんでもそれは文句を言いたくなる。今まで自分が幼い頃からしっかり育てた大切な一羽の鶴だ。

「あら、珍しい反抗ね。そんなに翔鶴がお気に入り?瑞鶴から聞いたわ。最近こっそり翔鶴と間宮に行ってるんだって?わかってると思うけど平等に接しなさいよ、子供は大人になってもこういうことは恨みの様に覚えてるんだから」
「なによ、翔鶴が誘ってくるだけよ」
「へぇ?」

赤城さんの眉が動く。私は口に出して気づいてしまう。本来私なら翔鶴を間宮に連れて行くなら、平等に瑞鶴を誘うはずだ。タイミング良く瑞鶴がいなかったのか。いや、恐らく違う。回数が異様になってることが薄々気づいていた。他人に客観的に説明して、確信めいたものとなる。翔鶴はわざわざいつも瑞鶴に用事があるとき誘っていたのだ。
動揺する私を見て、赤城さんは両手を枕に顎を乗せる。まるで狐のような笑み。成長途中にも関わらず既に豊かな胸が床に押し潰されて窮屈そうだ。

「それなら話は別ね。翔鶴をしつける必要があるわね。」
「翔鶴をどのようになさるつもりですか?」
「加賀、あの子にあなたは荷が重いと思うの」
「は?」
「少しは気づいてるでしょ?化け物よ、あの子は」
「ちょっと、赤城さん、言葉を」
「化け物は早目に手懐けないと」
「そんな、ダメです!幾ら何でも赤城さんでも」
「兎に角。いいわね、翔鶴のこと」

こういう行為にはポジションニングが大事らしい。私は一瞬にして背中から覆い被さられ、四つん這いで固定される。

「トラトラトラ。我奇襲に成功セリ、てとこかしら?」

後ろから手を伸ばし赤城さんは両乳首を抓る。直ぐに勃ちやすい乳首に赤城さんは嘲笑い、右耳に舌を這わせる。生暖かい感触が微妙に気持ちいい。乳首は人差し指で弾かれ、その度軽く体が跳ねる。

「加賀は本当に面白いわね。翔鶴だなんて。流石ね。選んだわね」
「何の話よ?まるで任務にしか興味ない空母に相応しい言葉ね」

赤城さんは翔鶴の戦闘力しか見ていない。
自分といずれ並ぶであろう、天才としか、見ない。

「躱しながら攻撃するなんて、何処で習ったのかしらね、加賀さん。翔鶴?」
「知らないわ」
「加賀」
「なに」
「あなたが誰を選ぶか自由だわ。私は構わないわ。でももし任務に支障きたすなら」
「?」
「貴方を見放すわ。貴方を撃ち落とすかも。」

背筋が凍る。言葉は真実を含まれていた。この人は長年付き添ってきた相棒をあっさりと捨てるだろう。残酷な人。

「何の話かわからないけど。覚えておきます」
「ふふ、生意気ね、本当に誰の影響かしら?躾が必要かしら?」

次は下だろうと予測して膝を閉じる。無駄な抵抗だと承知だとしても、礼儀だというように閉じる。抵抗した方が彼女は悦ぶ。

「あ」
「広げなさい、加賀」
「あ、あ、」
「自分で広げなさい、加賀」

耳元で囁かれ、背筋がぞくりと興奮が走る。奥が濡れていくのを感じる。私は脚を大きく広げ、両手で陰部を見せびらかすように尻を掴み広げる。白く粘り気のある液が紅く開いた膣から溢れて、太腿に垂れた。

「加賀、濡れすぎ」

クスクスと頭の後ろから嘲笑うような声。
後ろから容易く長い指が侵入してくる。すでに濡れたそこはすんなりと呑み込み、くちゅくちゅと淫らな音を奏でる。短く甘い息が断続的に出て、赤城さんの指に合わせて、吐息が漏れる。声を抑えると、「声を出しなさい、加賀」左指で突起を摘まれ、甘い声が大きく出てしまう。一度口を開くと繰り返される行為にもう声は抑えられない。甘い声で赤城を呼び、自分の液の付着した指を舌で舐めさせられ、下の口で指を咥え腰を振らされ、自分の陰部を赤城に曝け出す。まるで赤城さんの指人形のように私は操られる。今の行為の瞬間だけでない、私の存在事態がそうなのだ。赤城の指人形。
それが加賀という存在の定め。
それは運命の楔のように何度も製造されようとそうなのだ。
外で物音がした。背筋が凍る。顔が熱くなり、胸の緊張が一気に高まると共に膣が閉まる。赤城も指を止めて警戒する。

「誰かしら」

その後、軽い足音がパタパタと慌てて遠のいていく。後、何かが落ちた小さな音。

「小さな若鶴が来たのかしらね」

私の反応を伺うかように問う。

「まさか。子どもは寝てるじかんよ」

✳︎

結果的には翔鶴は赤城さんに任すのは正解だった。年月を経て見違えるように成長していった。成績を見るだけでわかる、確実に強化されている。やはり子の個性によって師を変えるのもいいらしい。

「まぁ、今思えば才のあるあの子には赤城さんしか教えれないわね」

強がってみて、少ししんみりと寂しくなる。こんな時は明るくて単純な瑞鶴を久々に間宮に連れて行こう。空母寮一階の翔鶴と瑞鶴の部屋にたどり着き、ノックすると、はい、と綺麗なおしとやかな声が扉の奥で聞こえた。ぎくりとする。翔鶴だ。その久しい風貌は自分の記憶のそれと違った。

「あら、加賀さん」
「…翔鶴、あなた」
「え?ああ、髪ですか?最近日に日に色が抜けちゃうんです」
「そう」

無意識に綺麗な線の細い髪に触れる。緑の混じった漆黒から白銀へと変化している。元々整った顔立ちに相まって、ますます神秘性が出てきていた。このまま鶴のように飛び立っていくのだろう予感がした。

「え、っと、加賀さん、用事は?」
「あぁ、ごめんなさい、瑞鶴知らないかしら?」
「瑞鶴ならつい先ほど用事で出て行きましたよ、何かお伝えしましょうか」
「いいえ、間宮に誘おうと思っただけなの」

そう言うと、翔鶴はくすり、と笑う。

「加賀さんったら。瑞鶴はもう直ぐ13ですよ、もう食べ物で釣ったら怒られますよ」
「あら、そうだったかしら、早いわねぇ月日は。じゃあ、貴方は」
「もう直ぐ14です」
「最近の子は成長早いわ」
「加賀さんも若いんですからそんなこと言わないでください」
「そうね、ありがとう、邪魔したわ」

用事がなくなったので帰ろうとしたところ、翔鶴に腕を掴まれる。どこで覚えたのか、上目遣いではにかみながら翔鶴は言う。顔を紅くするところは昔の面影を残していた。

「加賀さん、代わりに良かったら私を連れてってください」

最近の子はお菓子では釣れないと言われたが、甘いものは自分が食べたかったので間宮に寄ってアイスクリームを食べた。翔鶴が何を考えたのか「港に行きたいです」と言いだしたので散歩することにした。自分としては職場であるのでもう正直勘弁なのだけど、翔鶴が余りにも可愛らしく強請ったので仕方ない(私は相当面食いらしい)。

「なんだかんだ、優しいから加賀さんは。」
「うるさいわね」

折角だから夜景を見に言った。此処横須賀港は夜景が綺麗だ。昔馴染みとはいえ綺麗な子と歩く夜景は少し印象も違う。少し得意げな気分になる。

「綺麗ですね」

そうね、夜景を見るふりをして翔鶴を垣間見る。昔から整った顔をしていたけれど、成長するにつれてますます綺麗になっていく。そして、嫉妬する。
(ああ、なんて、なんて、自分と違って精巧に製造されて美しいのだろう!)

夜景の魔力なのか、不意な衝動に駆られて右にある手を握る。横で小さな可愛らしい声を上げたが、遠慮がちであるが、確かに握り返した。小さな、ほんの小さな、冷たい手だった。

わるいひとですね。

そうぼやかれても握ってしまったものは仕方ない。翔鶴は静かに言った。

「私の初陣、決まりました」

私はそう、と返す。震える手を親指で擦って暖める。

「13才。加賀さんと同じ年齢です」

嬉しそうに笑う顔に私は少し自惚れを覚えてしまう。

「慢心しないで。しっかりやりなさい。貴方の訓練の成果はきっと出るわ」
「はい」

見上げる目は期待と不安を込めて私を見ていた。若い。私は瑞鶴と翔鶴を見るといつも思う。そう感じるたびに時間は有限で時間を無駄にせず鍛錬しようと思う。左手で翔鶴の頬を撫でる、若く瑞々しい。赤城さんと質感が違う肌と肉の感触。

「誇りを持ちなさい、貴方は正真正銘の、正規空母よ」
「はい」
「元戦艦の私とは初めから違うのよ」

同じ戦艦とはいえ、安定性のある赤城とも違う。華がない空母。これから英雄になるだろうこの子に何か物を言う資格なんてないかもしれない。

「頑張りなさい」

私は自分にとって完璧に見える小さな頭を撫でる。意志の強い目が私に刺さる。海からの風が冷たく、彼女は強く私の手を握る。

「おまじないください」

「おまじない?」

「そう、私が頑張れるように。最強の空母になれるように」

魔が差した。自分が13の子に手を出すとは思わなった。翔鶴の美貌と横須賀の夜景、又赤城さんとの行為の習慣がそうさせたのだろう。私は 髪を撫でていた手をそのまま頬を撫で、おとがいに触れ、軽く持ち上げ、唇を落とす。ゆっくりと翔鶴が目を伏せる。柔らかい感触が広がる。引こうとすると、まだ足りないとでもいうように翔鶴は少しつま先立てて、角度を変えてキスをする。気持ち良くて癖になり、私達は何度も何度もキスをする。終いには勢いで私は舌を翔鶴の中へ入れる。びくっ、と小さく反応した翔鶴に後悔して舌を戻そうとするが、翔鶴が逃さないようにたどたどしくも積極的に舌を絡め出す。翔鶴の吐息を含んだ高く甘い声が脳に刺激を与える。

「あ、ぁっ、ふぅ、んっ」

無意識なのか、夢中になるにつれて私にしがみついて来る。

「はぁ、あ、あの、加賀さん、手」
「手?」

気がつくと、私の右手は翔鶴の胸に触っていた。

「あ、ごめんなさい、つい癖で」
「…赤城さんとですか?」
「翔鶴、あなた」

知っていたの?
翔鶴は下を向く。

「ごめんなさい」
「翔鶴、あなたが謝ることではないわ」
「でも、加賀さん。わたしは貴方が好きです」

薄々気づいていた。というより気づかざるを得なかった。幼い時から、翔鶴の自分に対する視線は普通ではなかった。それに少し優越感と満足感を感じていた。赤城さんと師を変えるのを渋ったのもそのためだ。
そこからは早かった。宿に入って、唇を重ねて、翔鶴の白い身体に触れた。恐る恐る初々しく自分に触れる翔鶴が愛しくて、丁寧に傷つけないように身体をなぞっていく。嫌でも刻まれた赤城さんとの違いが触れることでわかっていく。色の白さ、首の長さ、髪質、肌の質、胸の大きさ、太腿の感触、陰部の違い、感度の違い、愛情の違い。

「か、がさ、す、き。だいすき。」

弱々しく紡がれる言葉と共に翔鶴は私の頬に手を触れる。彼女のひとつひとつの仕草に愛情で溢れていた。この路傍の石を宝石のように扱うようだ。翔鶴の愛情に私は幸福感を味わうはずだった。しかし、絶望したのだ。彼女に愛されることで、私は赤城さんに愛されていないことを身に染みるほど知ってしまった。
真実を言おう。私は赤城さんを愛していた。服従され、屈服され、虐げられても、愛していた。赤城さんもとうの前に気づいていただろう。しかし彼女が愛を返すことはない。
初めは無償の愛で彼女を変えようと思った。いつか彼女は愛を知ると。知ったのは自分だ
。彼女は強さの代わりにあらゆるものを削ぎ落として造られたのだ。初めから搭載されてなどない。

私は、彼女に愛されていない。全くといってもいい程に。

「加賀さん」
「はい」

翔鶴の指が私の目の下に触れる。

「何で泣いてるんですか?」
「幸せだからです、翔鶴に愛されて」

私ははじめて彼女に嘘をついた。その嘘に翔鶴は眉をへの字に下げ、涙を流しながら、端正な顔を歪めて笑った。

「幸せなひとはそんな顔しないですよ、加賀さん」

私は不本意ながら、彼女の初恋であり、同時に初めての失恋相手となったのだ。
後から身に染みた教訓であるが、幼い時の経験は時に大人になった時の選択を左右してしまうことがある。特に、翔鶴という女の場合は、未練がましい程にそういう傾向があった。

2019年5月5日 pixiv掲載

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA