鶴頂紅(艦これ/翔加賀/#2)

#2 生まれと出会い

美しいものには毒があるもの。生物学の書物で学んだことあるが、それを身を以て知るのは翔鶴という女を知ってからだ。
翔鶴は生まれ持って甘い毒を持っていた。
若さと生まれ持った美しさで私をゆっくりと蜜のように体内隅々まで深く魅了していく。

最初は只の子供。妹分とでしか接しなかった。彼女が生まれた時、私は7つの時だ。初めて見る小さな白い生き物をじっと見つめていると、鳳翔さんが微笑みながら「加賀さん、翔鶴さんを抱きますか?」と抱き方を教えてくれた。子供には少々重かったが、鳳翔さんに支えてもらい私は初めて赤子を抱いた。円らな瞳と目が合うと、赤子は少しはにかんだ気がした。
彼女が艤装を装着したのは5才の時、私が12才だった。5才の時の翔鶴はまだ髪は今の瑞鶴のような髪の色で、もうすでに綺麗な顔立ちをしていた。私はその瞬間を立ち会っていた。

「綺麗ね」

私は自分にない最新の高性能艤装を見て思わず漏らした。無意識に柔らかく細い人形のような髪の毛をそっと撫でていた。あまり記憶にないが、今思えば幼いながらのただの羨望や嫉妬めいたものだったように思う。妹がより高価な玩具を持っていたような、しかし年上故に我慢しようとひたすらひた隠すような。
だが、翔鶴はそれを自分への好意と取り違えて解釈したのだ。
それが、始まりだった。

まだ翔鶴は幼くお遊び程度の弓の練習を始めていたが、彼女は熱心に私と赤城さんが弓道場で練習している所を見に来ていた。騒がしく図々しい瑞鶴と違ってあまり自分の意志を口にしない大人しい翔鶴であるが、憧れるものがあったらしい。それは可愛らしいものだった。
私は赤城さんを見にきたのだと確信した。赤城さんと私は姉妹のように育ってきた。
赤城さんは昔から華があった。天性の才能と優れた勘の持ち主で戦いに関しては超一級の天才で将来は正規空母としての活躍も期待されている。顔立ちもかなり整っており、物腰も柔らかい。そんな完璧な赤城さんに憧れ武道場に訪れる人は多かった。誰もが彼女は将来英雄になるだろうと予測した。

「加賀さん」

弓が真っ直ぐに中心に刺さるのを確認する前に赤城さんは私を呼んだ。いつも通りの笑顔でいつもの調子で衝撃的な言葉を言う、

「私、来月から第一艦隊に配属になったわ」

私は息を飲む。僅か12才で最前線の部隊へ。恐らく空母としては最年少だろう。唇を一瞬噛む。やはり、赤城さんは次元が違う存在か。しかし、私は直ぐに諦めた。

「そう」

先に行かれるのは慣れている。赤城さんもそんな私の態度に慣れていて敢えて言葉を残す。

「加賀も、すぐ来るわよね」

彼女が加賀と呼ぶ時は命令だ。私はそれに絶対服従しなければいけない。それこそが彼女の天性の上に立つ才なのだろう。

「勿論よ」

かく言う私も赤城さんを囲う取り巻きと変わらない。只、隣りに居続けるために他人より少し努力しただけだ。
私は赤城を他人より知っている。彼女は任務に、自分にとって使えないと判断した場合、残酷に切り捨てる。

「あかぎさん」

鈴のように涼しげな特徴ある声が聞こえた。翔鶴だ。

「あら、翔鶴。弓の練習する?」
「は、はい!いいですか?」
「ええ、勿論、貴方の艤装綺麗だそうね、早く私も見たいわ」

戦場で。その言葉が出ないだけ赤城さんは弁えている。その爽やかな笑顔に隠された真意をこの無垢な子は知らない。赤城さんは任務のことしか考えない。
私は隠すように裾で汗を拭う。すると、目の前に差し出されるタオル。

「こ、これ、どうぞ」

震える白い手で翔鶴は言う。彼女は目上の人と話すことが緊張するのか、よく顔を赤くしていた。

「ありがとう」

タオルを受け取り拭う。ふと見た小さな存在を見る。白い顔が真っ赤だった。

「あら、翔鶴、私にはないの?」

からから笑う赤城さんにまた真っ赤になって、「あ、あります!」と赤城さんに小さな歩幅でちょこちょこと必死に走る。自然とふ、と笑ってしまう。
良い兆候だ。人を成長させるのは憧れや目標。純粋極まりない動機だ。
私は矢を引く。さっきの赤城の言葉から自分の何かが燃えたぎって仕方ない。表に現れにくいらしいが、私はかなり感情的な方に思える。軽快な音と共に矢が刺さる。わぁ、と翔鶴が息を呑み、赤城さんは意味ありげな笑みを浮かべる。
同時に怒りや嫉妬は更に人を成長させるのだ。

赤城さんが第一艦隊となり、私は一年後第二艦隊に配属された。同時に時間な余裕がある方の私は翔鶴、瑞鶴の指導を任される。

「もう一度」
「はいっ!」

「もう一度全然ダメじゃない」
「…..はい!」

「何やってるの、五航戦」
「……っ」

「……これだから五航戦は」
「….は、い」

指導してわかる。子供には個性がある。褒めて伸びる子、挑発して伸びる子、負けず嫌い、落ち込みやすい、口ごたえする子、要領が良い子。

「….加賀さん、瑞鶴だけ怒らないでください」

ある時、翔鶴は私の前で言った。瑞鶴が私の言葉に今まで溜めていた感情が溢れて大泣きした時だ。翔鶴は瑞鶴を部屋で宥めた後、私の部屋に訪れた。

「私も至らない所あるはずです。どうして瑞鶴だけ叱るのですか?」

本当のことを言うと、私は翔鶴が苦手だ。翔鶴は赤城さんの様な天性の才能があった。褒めざるを得ない何かがある。そして、何も言わなくても自分で学習し超人的な速さで成長している。

この日の翔鶴の目はいつもと違った。燃えるような怒りで私を睨んでいる。私が瑞鶴を傷つけたのに余程怒りを覚えたのだろう。

「五航戦には知らなくていいことよ」

私は避けるように目線を外し、冷たく言い放つ。翔鶴は逃さなかった。細い手が私の腕を掴む。そう。彼女の方が、性能は、力が、優れている。

「翔鶴。翔鶴、です!!私の名前は!!」

その目は微かに透明な涙で濡れていて、私は不謹慎ながら綺麗だなと思った。

「なにしてるの」

冷たい無機質な声が響く。お互い扉が開いたことを気づかなかった。

「赤城さっ」

翔鶴は蒼ざめる。赤城さんのこの一面を知らないからだろう。赤城さんは翔鶴を一目も見ない。

「加賀。何してるの」
「すみません、赤城さん。少し演習内容について議論していただけです」

絶えず余裕な笑みを浮かべる空母赤城はここにはいない。

「そう、翔鶴、演習お疲れさま、今日は帰っていいわ。」
「は、はい」

翔鶴は静かに部屋を出て行く。赤城さんは私を呼ぶ。

「加賀」

狂気めいた、情欲に溢れた、あらゆる負の感情を凝りかためたような存在。思えば、この行為が始まったのはこの頃だ。赤城さんはこの頃から私と翔鶴の関係に嫉妬していたのかもしれない。
私は呼ばれた瞬間運命をあきらめた。細い指は私の首に食い込んだ。息が出来なくなる。反射的に首に手が伸びる。

「抵抗をやめなさい、加賀」

私は赤城さんを睨む。何するんだと目で訴える。赤城さんは威圧を辞めない。

「もう一度言うわ。抵抗をやめなさい」

生理的に涙が分泌する。私は赤城さんの手を掴む。赤城さんは私の苦痛に歪んだ顔にどこか光悦感を帯びながら私を首を絞める。柔らかな唇が私の唇に触れる。
酸素が薄くなり、死ぬ恐怖がじりじりと身体へと染み出して行く。
赤城さんに殺されるという興奮が集中する。不本意にも下着が濡れるのを感じた。生理現象、私はそう解釈した。

「ぃあ、」
「加賀、笑ってる」

は?
言われて気づく、私は笑っていた。

「私に触れられて、興奮してるのね」

へんたいね。

耳元で囁かれてゾクリとする。あなたが笑ってるからですよ、この変態。

言い返したかったが、言葉でさえ彼女に主導権を取られている。

「ねぇ、かーが」

甘い言葉。妙な妖艶さに不潔さを感じて気持ち悪い。また再度キス。身体が熱くなる。どうやら私は感度が高いようだ。長い指が温度の高い奥まで入る。

「あいしてる」

この、嘘つきめ。そう毒づきながらも、あろうことか、冷たい指で私は絶頂に達したのだ。

2018年12月9日  pixiv掲載

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA