Kiss to Heaven(バンドリ/さよひな/R-18)


 2月14日。
年を越して、日菜のアイドル業は少しばかりピークを過ぎた。学業は勿論のこと、最近では家で趣味の天体の本を読んでたり、ゲームをしているのをよく見かけて、認めたくはないが、紗夜はほっとするのを感じていた。今日は学校の後仕事があったようで、夕方近くにギターを小さな背に背負いながら妹は一杯の紙袋を両手に抱えて帰ってきた。

「おかえり、日菜。荷物一杯ね。それは?」
「ただいまっ!おねーちゃん!ファンからのチョコ〜〜」

嬉しそうに紙袋を抱える姿が可愛いらしくて、よかったわね、と頭を撫でる。日菜は子供のようなお菓子が好きなのだ。中身を覗くと、手づくりが多いが、市販のチョコレートも色とりどりに沢山入ってる。不思議なことに市販のチョコレートは同じ種類のものが多い。有名な海外のチョコレート会社のもの。偶然にしては変だと思って聞くと、日菜は悪気なくさらっと言う。

「ああ、この間ラジオで『kiss』ってチョコ好きだって言ったからね」
「わざと指定したわね」
「あはは、いーじゃん!誰も損しないし。好きなんだもーん」

日菜はソファーにどかっと座ると、チェスの駒のような特徴的な形のチョコレートをひとつ取り、中から出てる文字の書かれた紙の紐を引っ張り、銀色の包み紙を開き口の中に入れる。瞬間、甘い香りが空気に漂った。

「おねーちゃんも食べる?」
「いいの?」
「沢山あるからいいよ、クッキー&バニラとかナッツとか全種類くれた子もいるし」

はい、と袋ごと差し出される。紗夜もなんだかんだ甘いものが好きなのでその誘惑に勝てず、ひとつミルク味のチョコレートを取りだす。日菜と同じように中の紐を引き、包み紙を剥がして口に入れる。舌の熱に溶けた甘さは口の中に広がり、幸福感さえも胃に溶かされる気がした。外国製だからか、甘さが強い。

「甘い…美味しい」
「でしょー?チョコ!ってわかる味がいいよね」
「そうね」
「ね、ね、チョコって媚薬効果があるんだって〜!口に溶かしながら食べてる時、脳の活動と心拍数がキスしてる時の約二倍なんだとか」
「なんでそんなこと知ってるのよ」

ラジオでリスナーさんが教えてくれたんだ、とまたチョコレートを一個食べながら日菜は携帯を見ながら言う。姉が隣に座りテレビをつけると、日菜はそのまま最近はまっているゲームを始めた。顔立ちがより成熟した姉は画面を逸らさず口を開く。

「ずっとそのゲームやってるわね」
「うん、だって。一番取れないからさぁ面白くって」
「そう」

日菜は大体1番を取れるからか、取れない時は絶大な興味でそれに固執する時がある。その時は本当に楽しそうに熱中するのだけど、何となくだが、それに紗夜は疎外感を感じてしまう。自分が理解しえない領域に感じてしまうのだ。瞬きも碌にせず巧みに指を動かしながら笑顔でゲームをする横顔は子供のようで可愛らしいのだけど。

『おもしろくないわね』

漏らしそうになった言葉を、紗夜はかろうじて口を閉じて閉じ込めておく。かろうじての姉の矜持だった。テレビでは大きな芸人が動物を抱えてあやしているのが映る。大男が小動物を臆病ながら抱えている姿がおかしくて周りから笑いが飛ぶ。くすり、と笑いながら横目で見るが、妹はずっとゲームの画面に夢中なご様子。紗夜は少しむっとする。いつもはおねーちゃん、おねーちゃんとうるさい癖に。

「日菜」
「んー?」
「あまりやり過ぎたら目が悪くなるわよ」
「んー」

気のない返事にますます機嫌が悪くなるのを紗夜は感じた。

「日菜、私ね」
「ん」
「チョコレート作ったの」
「んー」

いつもなら反応するはずが、反応しない。完全聞いてないのだろう。紗夜はテーブルの上の日菜のチョコレートの袋からひとつ取り出し、包み紙を開ける。

「日菜」
「ん、」

それを呼んでも視線を変えない日菜の唇に指で押し込んで無理やり挟ませる。驚いた日菜は反射的にチョコレートを食べようと、口を開く。その瞬間を逃さず、紗夜は肩を引きキスをする。

「んん!んーー!!」

押し込まれたチョコは日菜の舌の中に溶けて、紗夜はそれを味わうために舌を絡ませる。自然とキスは深くなり、紗夜は逃げる日菜の顔を両手で掴んで固定する。遠くで携帯の落ちる音が聞こえたが無視した。

「ん、はぁ、おねっ、待っ、んんっ!」

待たせてあげないわ。視線で伝えると、日菜はぎゅっ、と目を瞑る。

チョコを舌で動かして、日菜の弱い舌裏に追いやる。チョコレートごと日菜の舌を啜ると、いつもと違う甘い味が口に広がった。手で日菜の体が徐々に熱くなるのを感じて、頬をなでると、切羽詰まった目がこちらを見る。ダメよ、まだ許してなんかあげない。知ってるでしょう、私はしつこいの。唇の柔らかな感触を確かめて、また深くキス。あきらめた日菜は両腕を私の首に回して私の舌に絡めてキスに答える。

「ふっ、んんっ、あっ」

力の抜けた日菜をそのままソファーに押し倒し、馬乗りになったままキスを続ける。

「おねー、ちゃ、んん、甘い」
「美味しい?もう一個、食べる?」
「ん」

紗夜はもう一つキスチョコレートの包み紙を開くと、舌に乗せ、人差し指で日菜の頤を上げて唇に寄せる。触れる瞬間、ギリギリで紗夜は動きを止める。日菜はなんで、と絶望に近い顔をする。紗夜は首を傾けて、悪戯っぽく笑う。貴方が食べなさい、と視線で伝えると日菜はおずおずと舌を出し、紗夜の舌に絡める。チョコは舌に挟まれ、2人の体温に溶かされた。

「んん、ふっ、ん、んっ」

甘さが癖になり、紗夜は何度も何度も角度を変えて口付ける。夢中で日菜の柔らかい甘さを食していると、日菜の異変に気付く。身体が異常に熱く、触れるたびに敏感に反応する。

「おね、ちゃっ、うそっ、やめ」
「日菜?」

軽いキスをすると、またビクリっと跳ねる。切羽詰まった、甘い声。背中を手でトントン、と軽く叩く合図。思い当たる節はある。もしかして。でもまさか。

「日菜。もしかして、キスだけで、イキそうなの?」

その言葉に、日菜はビクッとまた反応する。抱きつく腕が力が入ったのは答えだった。潤んだ目が小さくうなづく。敏感だとは思ったけど、ここまでとは。例のチョコレートの媚薬効果せいかしら。

「ふっ、んんっ!!おね、ちゃん!!あっ!あぁっ!!」

抱きしめながら、舌を絡めて、啜ると、甘い声が返ってくる。耐えるような声が、縋るように抱きつく腕が、愛しくて、耳にキスをして囁く。

「好きよ、日菜」

その言葉がきっかけらしい、日菜は声にならない声を上げて、紗夜の腕の中で絶頂に達した。息を荒げ、足を痙攣しながら余韻に浸る日菜。予想外すぎて確認するためにスカートの中から指を入れると、中はぎゅう、ぎゅう、と締め付けた。

「あなた、本当に私のこと好きなのね」

日菜の生理的な涙を拭きながら呆れるように言うと、「チョコレートとおねーちゃんが悪いんだもん」と日菜は口を尖らして言った。

「ねぇ、日菜」
「なぁに、おねーちゃん」
「私、チョコレート作ったの」
「ホント!ちょーだい!」

日菜が力の入らない腕で紗夜を引き寄せて顔にキスの雨を降らしながらおねだりする。ホント、気まぐれ猫ね。くす、と笑いながら紗夜は額に自分のにくっつけて、「いい子にしてたらね」と唇を近づける。チョコレートには本当に媚薬効果があるのだろうか。気持ち、自分の声と性格さえも甘くなってる気がした。なんでやねん。テレビでお笑い芸人がツッコミを入れて、わはははは、と笑い声が聞こえた。

END

2018年2月23日pixiv掲載

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