ふつかよいの日には。(創作百合/佐藤伊藤。)

 

 佐藤先輩はたまに凄い酔う。
先輩は気づいてないだろうけど、私が分析する限り、緊張した時、生理前によく飲む。
今日だって、顔をさらに白くして、お腹を抱えたまま山本先輩に連れられてきた。前もって、山本先輩が連絡してくれたので、隣の先輩の部屋でテレビを見ながら待機していた。

「すみません、山本先輩、いつも」
「いーえ、このバカ頼むね」
「わかりました」
「バカは否定しろー」
「うるさい、酔っ払い!!はい、パス!」

先輩の小さくて華奢な身体がこちらに重力に伴って寄りかかってくる。しっかり支えてあげると力の入らない先輩は私の胸に頭を乗せた。お酒の匂いがふわっと匂う。勿論良い匂いではない。

「わ、紗季ちゃんやるねー。そんなに華奢なのに力強いのね」
「鍛えてますから」
「へー意外。可愛いのに」

山本先輩まだいるのに隠れて変なところを触ろうとするので手でつねる。山本先輩は頼むね、と一言言って、ドアを開く。

「あ、言い忘れ」
「はい?」
「紗季ちゃんのことが好きすぎて困るんだってさ。ごちそうさま」

端正な顔でウィンクされ、今度は本当に扉が閉まった。ガチャリという音を聞く前に身体を引き寄せて熱い背中を撫でる。

「紗季」
「はい」
「可愛い」
「ありがとうございます?」
「ん。好き」
「ちょ、っと」

頬にキスされる。頬だけじゃない。首すじにもキスを降らされてくすぐったい。いつもこれぐらい積極的ならいいのに。私のこと好きすぎてへタレになるところは可愛いけど。
それも、途中で止まる。あー、これは。

「う、気持ち悪い」

ヤバイやつだ。手を引っ張り、急いでトイレまで連れて行き、背中さすって吐かせてあげる。背中はびっしょり汗をかいていた。顔が白く、脂汗かいてるから本当に体調が悪いのだろう。お水を持ってきて、飲んで吐いての繰り返し。

「大丈夫ですか?」
「ごめん、本当に、ごめん、ごめん」
「いいですってば」

顔面真っ白で便器を抱える先輩の横でしゃがむ。酔いで頭がぐらぐら回っている。頭を撫でると、普段恥ずかしがるけど、今はそれどころじゃない様子。吐き切ると、一応動けるまでは回復したようで先輩はふらふらトイレから出る。パジャマを出して、着替えさせて、化粧を落としてあげる。お風呂は明日かな。

「はい、先輩、歯も磨いてー」

先輩はかろうじて言うこと聞いて、歯を磨き終えると、ポロポロ泣き始める。先輩は酔うと泣き上戸というより、感情が高ぶって泣いてしまうことがある。普段感情の起伏があんまりない分、反動できてるのかもしれない。優しく頭を撫でて、「どうしたんですか?」と聞いてあげる。

「ごめん、ほんと、ごめん、迷惑かけて」
「大丈夫ですよー」
「ホントごめん。紗季がすごい、好き」
「いいですよ〜!嬉しいなぁ〜、私も好きです」

キスして欲しそうだから、薄い唇に軽くキスしてあげる。リップ音が鳴って、少しにやけてしまう。これ以上すると、スイッチが入るからここまで。

「はい、おしまい!ベッド行きますよー」

ベッドに寝かせて、自分も入って、布団をかける。手を握ってあげて、頭を撫でて、ゆっくり話しかける。

「あんまり飲み過ぎないでくださいね、心配ですから」
「うん」

心配、というのは山本先輩と飲むことも一応含まれる。

「お酒なら私が付き合うのに」
「うん、ごめん」

咎める言い方になってしまったけど、先輩のお酒や山本先輩に頼る時はわかってる。

「甘えたいなら、いつでもしてあげますからね」

私が。弱い耳をなぞりながら言うと、先輩は耳まで真っ赤になる。先輩は甘え下手。いざ甘えたい時、いつもアルコールに頼ってしまう。後輩とはいえ、少しは甘えていいのに(生活は依存してるのに)。

「おやすみ、先輩」

額にキスして、手を握る。先輩はしばらくグズグズ泣いていたけど安心したように眠っていった。すっぴんと寝顔は元々童顔な先輩を更に幼くさせる。

しょうがない人だなぁー。

涼子ちゃんにはいつも呆れられる。なんで?、って。なんで佐藤先輩なの?、って。
「なんで」と聞かれると、困るけど、顔が好きで笑顔が好きで、話し方や考え方、感情の表し方が好きで、情けないところも、足りないところも、好きだから。一緒に過ごすとラクで、楽しくて、居心地いいから。

恋は盲目だ。自分がこんなに恋愛脳とは知らなかった。

「好き。大好き。」

この時、このタイミングで出会ったことは何か意味があるのかな、とたまに思ったりするのだ。

朝、お味噌汁を作ってあげた。
頭痛薬と吐き気止めも一緒に出してあげる。
目の下にクマを敷いた先輩がお味噌汁啜って感激する。

「あー!二日酔いの時のお味噌汁ってなんでこんなに染みるんだろ」
「ふふ、体調悪い時そうですよね」

自分の料理を美味しそうに食べてくれるのは幸せだ。

「紗季、昨日はごめん。看病ありがとう」
「いえいえ、山本先輩には謝ってくださいね?」
「うん」
「あ、先輩」
「なに?」

先輩の耳に触れて、柔らかく笑う。

「今夜は私がしますから」

白い顔が照れて、「紗季、最近格好良くなったねー」と言うから、「鍛えてますから」と笑った。


END

2018年7月16日 pixiv掲載

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