ピエタの猫(バンドリ/ひなちさ/R-18)

 日菜ちゃんは胎内回帰願望があるかもしれない。
剥き出しのお腹を頬ずりされながら、ぼんやりと考察する。この日の番組収録はパスパレから私達2人で宣伝することとなった。出演者が多く、待ち時間が長いため、楽屋でテレビをみていると、日菜ちゃんが寄ってきて、膝に頭を乗せてきた。いつものことなのでそのままにさせてると、衣装を捲ってお腹にキスされて、軽く撫ぜて、頭をくっ付けて、また頬ずりの繰り返し。よく飽きないわね、と呆れる。それでも、無碍に扱えないのはこの子から醸し出されるミルクの匂いと純真無垢な外見と、天才故の自信だろう。小さい頃から芸能界で生きていたからか、「勝てない」と感じた相手には従順になるふりをする傾向が自分にはある。

「お腹好きね、フェチなの?」
「んん?そういえば、るん!ってくるかも。気づかなかったなぁ」
「そこばっかりなんだから」
「あは!寂しかった?千聖ちゃんもうちょっと太ってもいいかも。お腹はまだお肉あるけど、他、全部骨じゃん?ファンの子ガッカリするよー。あ、でも千聖ちゃんの裸見ないからいいのか」
「余計なお世話様よ。日菜ちゃんだってガリガリじゃない。あんなにハンバーガー食べてるのに」
「うーん、胃腸の吸収悪い体質みたい」

そう言って、お臍にキスされる。舌で穴を這わせられると擽ったくなった。日菜ちゃん、やめて、と訴えても、「うん」と言いながら続けた。もう、いたずらっ子なんだから。

「ひゃっ」
「千聖ちゃんは敏感だから、るるるん、だね」
「意味わからな、からぁ」
「ごめんね」

世界でいちばん軽い謝罪を聞いて、また唇が自分の皮膚に触れる生暖かい感覚を感じた。私はこの子に相当甘かった。例え、歪んだ性癖持っていても、サイコパスなのかしらと疑う行動をされても、確かな才能と軽快で爽やかな性格が魅力的で可愛いらしくみえた。

「千聖ちゃんはどこか触って欲しいとこある?」

またお腹を頬ずりしている日菜ちゃんの髪を撫ぜる。ふわふわしたアメリカ人の子供のような手触りが気持ちいい。猫のように無防備に甘える彼女にぶるりと脚がそわつく。つい癖で唇を噛んでしまう。それを目ざとく見つけた日菜ちゃんは無邪気に言う。

「あれ、ムラムラしてる?」

また手球に取られるのが癪でそうよ、と私は屈んでその薄い唇に自分のを合わせて黙らせる。時間を見ると、まだまだ余裕がある。日菜ちゃんの弱い耳を舐めて、口をその耳に寄せる。

「日菜ちゃん、舐めて綺麗にして?」

母親が子供に窘めるように、それでいて艶のある声で言うと、日菜ちゃんはうん、と少し顔を赤らめて、素直に頷いた。日菜ちゃんはソファーの前に跪いて私のスカートをめくり、そこに顔を埋める。私の脚を広げて、パンツを脱がしていく。私が教えたことだった。

「千聖ちゃん、濡れてる」
「日菜ちゃんのせいね」
「あたし?何もしてないのに?」
「何もしてないのに、よ」

頭を撫でながら、急かすように日菜ちゃんを自分の性器に寄せていく。日菜ちゃんは両手を私の太腿の下から入れて固定して、性器の形に沿って舌を這わせる。ぴちゃり、と水の音が心地よい。何しても器用なこの子はこの分野でも才能を発揮した。人の気持ちに共感できないためか、人一倍の観察力で他人を理解しようとしているみたい。直球に「ここがいい?」「何して欲しい?」と聞かれて恥ずかしながらもうなづいたところや言ったことは全て覚えてるから、単純に優秀だ。

「んっ….あっ…ひゃっ….」

生暖かさが、気持ちいい。このままお気に入りの猫にずっと舐めて欲しい。日菜ちゃんが両手を絡めて、ぎゅう、と握った。私がイキそうなのを感じとったのだろう。

「もう、少しっ、あぁっ…」

日菜ちゃんの舌が敏感な所を優しく何度も刺激する。何か大きな波が来る予感がして日菜ちゃんに縋り付く。その瞬間。太腿を痙攣させて、私は絶頂を迎えた。溢れ出る液を日菜ちゃんが舌で丁寧に掬っていく。
落ち着いて、下着を整えても、日菜ちゃんはソファーの前に膝をついて手を握ったまま私の膝の上に頬を乗せた。今日の日菜ちゃんは甘えん坊だ。こういう時は決まっている。紗夜ちゃんが原因。珍しく少し嫉妬心を抱いてしまう。

「紗夜ちゃんとケンカした?」
「また、あたしやっちゃったみたい」
「あなた、無自覚で人を攻撃するものね」

髪を撫でてあげると、手に吸い付くように頭を差し出された。

「正直おねーちゃんのことよくわかんない。双子の姉妹ってもっと分かり合えるものだと思ってた」
「他人と分かり合える、だなんて幻想よ、幻想的な一体感を求める甘えの一種ね」
「千聖ちゃんは面白いなぁ。ねぇ、おねーちゃんと『他人』でなく、『一個体』であった胎内に帰りたいだなんて、引く?」
「それなりに。テレビにその発言したら殺すわよ」
「だよねぇ。だったら、こんなに苦しくないのに、って思う時がある」

それは、裏返しに言うと、胎内に帰り、『氷川日菜』として産まれて来なければ良かった、と言う意味だ。腹立たしいことに、彼女は自分の存在には無気力だ。

「他人だったら、諦めがついていたかもしれないのに。双子だから悩むんだ」
「馬鹿ね。一卵性だとしても、双子だって他人よ。それを求めたら紗夜ちゃんが可哀想よ。」
「そっかぁ…そうだね」

素直にうなづく日菜ちゃんの温かい手を握る。ああ、なんて、憎たらしい。なんて、愛らしい。

「ねぇ、日菜ちゃん。氷川日菜に産まれ落ちたなら、一生懸命に生きなさい。せっかく誰もが羨ましがる才能を持って産まれたんだから。」

あたしが欲しい、才能という塊。私にはそれが持たざるもののくだらない嫉妬心や自尊心のために無駄にするのは馬鹿げたことだと思う。それは、私を含めて、の意味だった。だから、自らの嫉妬を超えたい私は、それを利用することにした。

「紗夜ちゃんに拒まれてもね、あなたはあなた。あなたの行動で紗夜ちゃんがどう思おうと、それはあなたの責任じゃないと思うわ」
「おねーちゃんにこれ以上嫌われるちゃうのはやだ!!」
「嫌われても、あなたが紗夜ちゃんを諦めなければいいの。紗夜ちゃんが紗夜ちゃん自身を嫌いになってもあなたが好きでいればいいの」
「あ、あたしは、おねーちゃんと違うこれがたまに憎いよ。どうしてもおねーちゃんに嫌われてしまう」

彼女は姉に嫌われることを想像して、泣いた。それが、可愛らしくて、でも、腹立たしくて、私は華奢な体を抱きしめる。

「嫌われたらいいわ、私が抱きしめてあげる。大丈夫よ。死なないから。」

日菜ちゃんはわんわん泣いた。紗夜ちゃんの存在が絶対的過ぎるけど、今はこれぐらいでいい。少しずつ、隙間に私を埋めればいいだけだ。泣き疲れた日菜ちゃんはまた私の膝を枕にして寝てしまった。

「ふふ。赤ちゃんみたいね」

指で頬をつつくと、ふにゃり、と笑い、お腹の中に顔をうずくめる。そっとその額にキスをする。

「好きよ、日菜ちゃん」

あなたが、欲しいの。
気づいたら、私で一杯にしてあげる。紗夜ちゃんの存在を相対的に小さくしてあげる。この才能は私が使わないと勿体無いもの。誰も活かそうとしないなら、私が使ってあげる。
スタッフが本番を知らせに入った。それそろ出番ね。

「日菜ちゃん、出番よ」

揺さぶると、きらりと光った瞳が覗く。「えー、もう?」とぐずる日菜ちゃんだけど、本当は仕事したくてウズウズしてる。ほら、もう元通り。

「紗夜ちゃんのことになると不安定になるのが今後の課題ね」
「ん?」
「いいえ、独り言よ」
「ふーん?行こ!千聖ちゃん」

無邪気に差し出された手を握る。焦らなくていい。ゆっくり、ゆっくり、純真無垢な身体に私という毒を流し込んでいく。傷ついた猫に帰るべき場所はここよ、と何度も教えてあげる。そうすれば、あの子は帰ってくる。帰ってくるのだ。


END

2018年1月28日pixiv掲載

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