鬼に両親が殺された。
その時から鬼に両親を目の前で惨殺される悪夢に苛まされ、暫く寝る時はいつも姉が側で付きっきりで慰めてくれた。
しかし、その最愛の姉がまた鬼に殺された。
私は終に眠ることができなくなった。
◆
薬学に通ずるという自分の美点は自分への処方にも大変役に立った。致死量に限りなく近いある意味毒薬とも言える睡眠薬を自分で処方できるからだ。
「しのぶちゃん、その薬なぁに?」
薬包紙を広げて真っ白な粉薬を飲もうとすると、隣で眠っていると思っていた甘露寺蜜璃に声を掛けられ、ギクリとする。包みの中には通常量より遥かに用量を超えた粉薬。敢えて緩やかな所作をし平静を装い、通常通り返答する。微笑みの仮面は忘れずに。
「すみません、甘露寺さんが寝てしまわれたかと思いまして。睡眠薬です。最近眠れなくて…」
最近ではなく、毎日であるけれど。小さい嘘を吐いて、素知らぬ振りをして口を開き包みを傾けるが、甘露寺さんの白い手で止められた。その手は細いにも関わらず、筋肉の密度が高いため私を完璧に抑えてしまう。非難するような目で訴えると、大きな可愛らしい瞳が真っ直ぐにこちらを見据えてくる。多少のやりづらさを感じた。
「ごめんね、ちょっとウトウトしちゃった。でもね、しのぶちゃん、その量は私でもわかるよ、かなり多いでしょう?」
「…そんなことはないですよ」
蟲柱。名の通り毒を持つ私の身体は毒耐性を持ち、通常量では中々薬の効果は発揮しない。少しずつ量を増やして行き、今や普通の3-5倍近く飲んでいるだろう。それは最早良薬より毒薬に近い。被験者は自分しかいないため自分でも今後副作用がどう出るかわかっていない。
───しかしこれだけは言える、これだけ毒に塗れた自分は長生きはしない。
「しのぶちゃんっ。私しのぶちゃんより賢くないけどね、一応年上よ、甘く見ないでね。身体に悪い量は飲んじゃダメ。ダメ、絶対」
その真剣な顔に私はため息をつき、諦める。最早自分の命なんて、と思うが、甘露寺さんは中々許してくれない。ご多聞漏れず私も何故か甘露寺蜜璃に甘い。薬包紙をまた丁寧に畳んで側の机の引き出しにしまう。
「もう。ほら、おいで」
甘露寺さんが片手で布団上げて、私をベッドの中へ誘い込む。それは、いつもの合図だ。夜の営みの合図。私は中止だと思っていた分少し嬉しさと期待に頬を紅潮させ、その中に吸い寄せられる。まるで甘い蜜に引き寄せられる蝶の様に。
布団の温かさを感じると、すぐに甘露寺さんに引き寄せられ、彼女のゆるい寝間着の着こなしから覗く谷間に顔を埋められる。
「かわいいわ、しのぶちゃん」
甘露寺さんも頬が赤い染め上げ、早く私に触れたくてじれったい様子だ。背中を指の腹でさすられ、少し震えてしまう。
「背中弱いのね」
くすくす笑われ、静かに寝間着をはだけせていく。肩下まで下ろすと、甘露寺さんの厚い唇が首筋に落とされ、ねぶられる。生暖かい感覚が気持ちいい。
「んっ…」
首のラインを唇でなぞられ、比較的鋭敏な身体は仰け反る。力抜いて、しのぶちゃん。甘く優しい声に囁かれ素直に聞き入れる。甘露寺さんは甘えさせ上手だ。その風貌、声、態度、仕草のひとつひとつに名の通り甘さが練り込まれ、私はそうした甘い蜜にドロドロに甘やかされる。
「しのぶちゃんの肩薄過ぎるね、ちゃんと食べてる?」
露出した撫で肩の輪郭を辿られ、甘露寺さんは感想をつぶやく。
「食べ、て、ますっ、よ」
「もっと食べなきゃ。しのぶちゃん、痩せすぎ。また減ったでしょ」
「そんなこと、はっ」
そんなことは、あった。この間カナヲと銭湯に行った時気まぐれで体重計を測ると40kg切っていた。自分は徐々に痩せている。恐らく藤の花の毒を定期的に摂取している影響だろう。薬師を真似た事をして、当本人が一種の薬物中毒者なのだから世話ないな、と自嘲する。
「なぁに、思い出し笑い?」
くすくすと笑われ、集中してよと言わんばかりにキスされる。彼女の唇は分厚く、癖になりそうなくらい感触が良く、何度だって求めて夢中になってしまう。全てを忘れたいが為に夢中でせがむ様に求める。
「ん、んんっ、ふっ、はぁっ、あっ」
口を離す頃には自分の顔は溶けた様に緩みきっていることを自覚する。虫が花の蜜を吸った時陶酔感に溢れてるのじゃないだろうか、と密かに妄想した。
「可愛い可愛いしのぶちゃん」
頬に一つキスされ、何度も角度を変えて口づけしながら甘露寺さんは少しずつ私の寝間着を剥いていく。胸元をはだけさせると、甘露寺さんはその膨らみに吸い付いて痕を付けていく。自分は露出が少ないため見る人間は限られているそこは痕を付けるのには絶好の場所なのだ。
「かなり細いのになんで胸はちゃんとあるの?羨ましいなぁ」
「甘露寺さんの方が上背あってスタイル良いじないですか。私は寧ろそっちの方が羨ましいですよ」
それは死ぬ程までにも。もし身体が選べるのであれば彼女の様な肉体を選ぶだろう。きっと私の身体など腕一本で抑えられしまう。現に彼女に乗っかられて逃げる事を諦めている自分がいる。
甘露寺さんは胸に吸いつき、片手で優しく揉み、柔らかな乳房はその動きと共に滑らかに変形させながら彼女の掌に望んで吸い付いていく。いつしか息が上がる様になり、彼女の方の興奮も肌から伝わってくる。
「ありがと。私はしのぶちゃんの身体好きだよ。ああっ、勿論、身体だけじゃないわよ!?性格も全部よ?」
髪に、耳に、首に、頬に、鼻に、唇に、唇で口付けられる。動作の一つ一つに恋柱の名前の通り愛しさが溢れてむず痒い気持ちになる。甘露寺さんはいとも簡単に私の身体をうつむけにさせると、両手で骨盤を持ち上げ腰を上げさせ四つん這いの体勢にさせた。完全無防備な背中に一度キスされ、腰まで衣服をはだけさせ、下も捲り帯に引っかけ、小さな尻を露出させる。羞恥の所為か、そこから覗く濡れた花びらから愛液がすでに太腿を伝り垂れ落ちようとしていた。ほぅ…と恋柱の溜息が背後から聞こえ、全身が火照るのを感じた。
「…ぁ」
声を上げるつもりなんて、更々なかった。襞が熱くヒクヒクし愛液が溢れていくのが感じる。視られるだけでこの仕打ち。恥ずかしくて枕に顔を埋める。その影響でより尻を突き出す形となり、犯してくれと言わんばかりの淫らな体勢となる。着物を腰の帯まではだけせ、月明かりに照らされ白く反射する華奢な体躯を曝け出す様は他人の保護欲を擽され、抱きしめて守りたい欲にかられる。しかし、背負うものはそれに反して限りなく重い。
「綺麗」
甘露寺さんはそっと尻から太腿を愛撫して、震える私の反応を楽しみながらゆっくり濡れた花びらをなぞる。毛のないそこは熱く、触れると待ち侘びたように迎え、愛液が溢れてくる。ずぶり、と指を1本沈みこませると、身体がビクッと震えた。枕に顔を埋め声を抑える。くちゅ、くちゅくちゅと、中をゆっくり掻き回され、そのたびに甘い吐息が枕から漏れる。
「んっ…んんっ」
身体が熱くなると布団の中が熱くなり、息苦しくて枕に押し付けていた口を軽く放す。しかしその隙に細く長い指が私の口奥深くに沈み込み、空気の入った自分の唇の間から声が生まれる。
「あっ…!」
指の持ち主はその小さな喘ぎ声が嬉しい様子で、機嫌よく膣の中の指を軽く引いてまた中の壁を擦りあげていく。指はすんなりと呑み込まれ、またねだる穴に望み通りかきまぜていく。じゅぼじゅぼと音がなり、透明な愛液がシーツを汚す。
「んんっ」
今度こそ声を漏らすまいと口を閉じ、また顔を枕に埋め無意識に唇を噛んでしまう。しかし背中からかなり細い腰に巻きついた腕が緩み、甘露寺さんの指が噛んだ唇を撫でる。
「噛んじゃダメだよ、しのぶちゃんっ。血、出ちゃうよ。ほら、お口を開けて?」
素直に開けると、彼女の指が口の中に入り、舌に絡められる。彼女の指を歯で噛まないように唇を開き愈々声は止まらなくなる。
「あっ、あんっ!!あっあぁっ!!」
蜜璃の指が奥の敏感な部分を擦り、時に親指で突起を弾かれ、弄られる度に鳴いてしまう。本当に素敵な声、と蜜璃は興奮を抑えずと甘い息をを吐く。敏感になった私は甘露寺さんの指をしゃぶり込み愛液を太腿に垂れ流す。刺激される度に腰が跳ね、その感度の高さを表し、与えられる快楽に徐々に小さな尻が高く上げ自ら奥まで指を深く迎えていく。身体はもっと彼女の指を咥えたいと言っているようだ。
「かわいいわ、しのぶちゃん」
ご褒美よ、と指を1本増やして咥えこませる。私の体格上初めは指1本でもきついが、徐々に慣れさせて漸く2本入る様になった。今では1本では物足りない。快楽によがるように腰を振りぐちゅぐちゅと粘液の音が淫猥な空間を作る。恋柱の一方の親指で突起を擦りあげると、蟲柱は背を反らせて動物の様に鳴く。
「はぁ、あんっ、あんっ、あっ!!」
息継ぎをするよう、息を吐いた瞬間に唇を奪われる。ちゅくちゅくと舌を絡め合い、混じった唾液が口の端流れてゆく。全身敏感な状態で頭が何も考えれなくなり恋柱の指をきつく締め付けてしまう。
「相変わらず、キスが好きだね、しのぶちゃん」
言わないでほしい。そう思いながらも甘露寺さんがキスする度にきゅううっとその指を何度も締めてしまう。
「ふふ、こっちのお口は素直でお利口で可愛いね」
かわいいわ、と耳で囁かれぞくりとする。最早全てが性感帯な状態で、その蜜の様な甘たるい声でさえ、絶頂にきたしそうだ。限界に近いことを感づいた甘露寺さんが背後から私に覆いかぶさり、か細い腰を片腕で巻きつけて、片方の手で膣奥を刺激する。
「イキそうね?」
素直にコクコクうなずくと甘露寺さんは満足気に微笑む。
「お利口さん。イかせてあげる」
その細い指が素早く細やかに私の弱いところだけを狙い撃ちにする。恥骨の裏のザラつきのある箇所は私はめっぽう弱い。加えて、突起の刺激が同時にくるのは最早トドメをさされる動作だ。
「あああああっ!!ダ、メっ!!ああああっ!!おかしくなる!!ああっ!!」
「いいよ、しのぶちゃん。イちゃえ」
甘い甘い言葉が私を全て許してしまう。淫らな自分を、甘い自分を、欲に流される自分を、情け無い自分を、大嫌いな自分を。
「ヤダっ、もう、イクっ!、イちゃい、ますっ!!ああぁああ!!」
クネて逃げる腰を片腕でしっかり固定し恋柱の手は容赦なく弱点を突く。私は抵抗できず快楽によがりいやらしくも自ら指を咥えこむように腰を揺らしてしまう。天井に身体を反りだらしない口を開きながらびくびく尻が震えが止まらず、私は絶頂を達する。
「すごいね、すごい指を締め付けてる」
「はぁ、はぁ、やだっ、甘露寺さん、も、もう」
ちゅくちゅくちゅく、と変らず掻き回される指の動きにまた何かが奥から湧き上がってくる。溶けた顔から涙と唾液が垂れ流しになり、快楽に溺れそうになる。
「かんろじ、さんっ、も、イったからぁ」
「ふふ、実はこれはおしおきなの。何回もイこうね、しのぶちゃん」
甘露寺さんは私を膝の上に乗せると、指を膣口に当てがい、溢れる液を擦り付けて煽る。一度湧き上がった快楽は簡単には鎮めることはできない。目の前に鎮めるものを差し出されているのに止める事はできるだろうか。
「ほら、自分で振って?何回もイきなさい」
私は全て許可された気がして、甘露寺さんの柔らかな身体にしがみついて必死で腰を振り、良い所に擦り付ける。
「あっ、あんっ、はぁ、あっあんっ!!」
止まらなかった。羞恥はもう既に溶解され尽くした。私の媚態に興奮した甘露寺さんは下から突いて奥を抉り、唇ごとを奪って私を甘やかす。
「ああああああっ!!!」
「イっちゃったね、凄いぎゅうって締めてる。可愛い。もう1回ね」
「やっ、許して!!甘露時さん!!」
「許してください、でしょ。ダーメ、許さないよ。動いて、手伝うから」
震える腰を動かすと指がタイミングを合わせて突いてきて、頭が一瞬快感で真っ白になる。もう何も考えられず、私達は何度も何度も達した。気がついたら、私は甘露寺さんに抱きしめられて寝ていた。頬にキスされていたらしい。
「あ、起きちゃった?」
「…甘露寺さん」
身体が怠い。もう半日は動けないだろう。甘露寺さんが元気なところ見ると、自分の体力のなさに情けなくなる。悔しくて起き上がろうとするけれど甘露寺さんに軽く布団に戻される。それはそうと、兎に角眠い。久しい感覚だ。こうなると、逆に眠っていいものか迷ってしまう。
「眠そうなしのぶちゃん、可愛いよね」
「んー…可愛い、ですか」
「うんうん、甘えん坊さんみたい」
甘えん坊さん。懐かしい響き。昔姉さんによくそう呼ばれていたな。鬼に全てを奪われた思い出。思考を巡らせると憎悪が沸々と湧いてきたが、眠気と甘露寺さんに頭を撫でられて憎悪が溶けていく。彼女の甘さは一種の精神安定剤のようだ。彼女と目が合うと、ふわりと微笑みかけられる。
「好きよ、しのぶちゃん」
なんて、甘い言葉。天使でも悪魔でも感じさせるような誘惑だ。応えるか揺れる自分もいたが、鬼と惨殺された自分の姉や両親と継子達の顔を思い出して辛うじて留める。
「貴方みたいな人とお付き合いすれば、とても幸せになるんでしょうね」
そう言っていつも彼女と距離を置く。彼女は一瞬悲しい顔をするけれど、私の生い立ちを知る彼女はそれ以上は何も言わなかった。優しい彼女は止めようとしなかった。そのお礼に額に唇を寄せる。
だって、こんな可愛い人、誰だって幸せになって欲しいでしょう。
だって、こんな復讐に人生を賭けてる女に一生囚われて欲しくないでしょう。
勿論欲はあった。女特有のつまらない嫉妬心や独占欲は節々に感じた。甘露寺さんが誰かと一緒に笑い合っているのはいやだ。本当は自分だけを見て欲しい。愛して欲しい。
だけど。甘露寺さんを映した目の端に細くなった自分の腕が映る。自分はもうすぐ死ぬ。それも、近いうちに。恐らく20に辿り着けず少女のまま死ぬ。
ぽたり、と暖かい雫が頬に落ちる。甘露寺さんの涙。彼女の家族は私の家族と違い、順風満帆で彼女は鬼殺隊では珍しくふつうの家庭で愛されて育っている。だから皆んな彼女の明るさを守りたいと思うし、自然と好感を持つのは当然だろう。いつまでも明るく元気な彼女でいて欲しいと誰もが望むだろう。そんな子を、私なんかで壊されてはいけない。涙を流されてはいけない。
「甘露寺さん、おやすみなさい。ありがとう」
甘露寺さん、私もすきです。
あなたを、お慕いしております。
願わくば、鬼ではなくあなたの胸で最期は眠りたいものです。
甘露寺さんの甘さに頑なに閉ざした想いがポロポロと溶け出してしまう。以心伝心。そういう言葉はあるが、人間というものは言葉を発しなければ他人に中々考えが伝わらない様に不便に出来ている。
私も甘露寺さんもその点人間で良かった。言葉を発しなければちゃんと想いは伝わらない。それで良かった。それが良かった。私の想いは伝わらない。私の言葉に甘露寺さんはまた強く抱きしめて、涙を流した。私は甘く暖かいものに包まれて、漸く薬を使わず眠りにつくことが出来た。
その瞬間、私は幸せだった。私達は幸せだったのだ。
END.
( しのぶれど 色に出にけり わが恋は ものや思ふと 人の問うまで 平兼盛)
2019年12月19日 pixiv掲載