蝶になれない花(鬼滅/カナヲ×しのぶ/R-18)

 初めて私の太刀筋を見て、師範は眉間に皺を寄せながら少し哀しそうに、同時に少し嬉しそうに笑った。カナエ姉さんが生きていた頃の思い出だ。その花の舞う様な太刀筋は自分より寧ろ姉に似てると彼女は言う。隣で見ていたカナエ姉さんは至極嬉しそうに手を叩きながら感動していた。彼女はいつも私に甘くて、少々楽観的な人だったと思う。私にさえも妹の様に接して、鬼にも同情する優しすぎる人だった。

「カナヲ、良い太刀筋ね。花の呼吸みたいよ。才があるわぁ。カナヲ、鬼殺隊に入らない?」

 そのカナエ姉さんの言葉に師範はギョッとして、より深く眉間を皺を寄せた。

「ちょっと、ねえさん!?この間話したでしょ!カナヲは鬼殺隊には入れないって!そんなこと言ったらカナヲ本気にしちゃうでしょ!」
「そうだっけ?いいじゃない〜。冗談よ。ね、カナヲ?」
「姉さん!!ほら、カナヲ、剣を置いて。薬草を摘みに行くわよ」
「あらあら」

 当時は自分より大きい手が自分の小さなそれを包みながら師範は山によく連れて行ってくれた。師範は薬学に長け、また料理上手であり、よく薬草や山菜の採集に近くの山まで行く。その手伝いによく私も連れて行ってもらったものだった。歩きながらその度に色んな知識を教えてくれて、その平凡な時間は私は好ましく思っていた。
 登山中、黄色の独特な花が妙に目についた。幼き私は好奇心が勝って自然と歩を止める。急に止まった私に師範が振り返る。

「カナヲ?」

 師範は自分の目線に合わせてしゃがむ。視線を辿り、私が一点の黄色い花に目を奪われていることに気づく。

「あぁ、フサアカシアね」
「フ…?」
「ふふ、フ、サ、アカシア。西洋だとミモザと呼ばれてるらしいわ。あちらの国だと、この花が咲くと春の訪れを表すそうよ」
「春の、訪れ」
「そう。だからあちらの方々はこの花を飾ったりして春の訪れをお祝いするみたい」

 そう言って、手先が器用な師範は幾らかのそれを手折り、蔓に巻きつけて小さな円を作る。その黄色の輪を私の頭に載せて微笑んだ。

「あら、可愛い」

 私はその綺麗な顔を見て、ポワポワ暖かな気持ちと胸がきゅーと軽く締め付けられる気持ちで一杯になる。想いが溢れて、師範の手をもう一度強く握る。

「花言葉は優雅、友情。黄色のミモザは……ふふっ、これはまだカナヲには早いわね」

 頭を優しく撫でられて、私は幸せに包まれた気がした。師範は声まで綺麗だった。

 これくらいで十分よ、と師範は採れた薬草を見て言い、また手を繋いで帰る。遠い、また暖かい大切な記憶だ。その時彼女はいつも愚痴を言うのだ。

「カナヲ。姉さんはああ言ったけどね」

 きっと午前中の出来事だろう。私はすぐに感じとった。

「私は鬼殺隊に入ることは絶対反対するわ。カナヲはね、私や姉さんのようになってはダメ。カナヲには幸せになってほしいの」

 寂しそうにそう言い、私の髪を優しく撫でる姉に私は反応せずにいた。当時の私の感情は虐待の過去からまだ閉ざしたままだった。
ただ本能では感じていた。
 胡蝶カナエとしのぶ。彼女達は一対の蝶だ。どちらかが欠けていては飛んでいけないような、共依存関係を結んでいる。
 私は幼いながら、漠然と彼女達のようになりたいと思っていた。彼女達のように、蝶のように羽ばたきたかったのだ。

そう、彼女らのように、綺麗に、華麗に、羽ばたいてーーー

 嵐の前の様な静かな夜だった。鬼殺隊皆が決戦は間もなく始まることを感じとっていた。

『まず第一の条件として私は鬼に喰われて殺されなければなりません』

 その静かな言葉には想像を絶する程の憎悪に満ち溢れていた。骨の髄まで憎い。今すぐ生きている事を後悔させる程嬲り殺さないと気が済まない。彼女はその微笑みの仮面の下で発狂しそうな程の怨念を全身に忍ばせていたのだ。恥ずべきことに1番近くにいたはずの私さえも、その仮面に騙されてしまった。彼女はただ一時に幸せなふりをしていただけだ。彼女が彼女であるために。彼女自身が鬼への復讐心で発狂しないために。怨念は想像以上に根深く、復讐心は彼女の自我の一部となり鬼と心中するまで成仏されない。
 師範は藤の毒を爪の先まで満たさせ計画的な死を遂げようとしていた。動いた運命の歯車は最早止められない。誰も彼女を止められず、彼女は死に向かって疾走する。

(嫌だ…嫌だ…)
 
 私は今でも甘ったれだった。師範の緻密で決死で、ある意味狂気的な計画にどうしても反抗したかった。こんなに綺麗で、尊く、愛しい人を失うことに耐えられない。この優しく温かい手を切り離すことなんて、到底できない。師範の言う通り、鬼は甘くない。頭では理解できたが、師の命を犠牲することありきの作戦を受け入れることはできなかった。まだ時間はある。師の命を犠牲にしない方法を生きているうちに考えたい。
 精神的に窮地に立たされた自分の、苦し紛れの抵抗。自分のこの想いで彼女を思い止まらせたい一心だった。気がついたら思考より先に身体が行動し、薄い肩を両腕で畳にどし、と重く押し付けていた。

「ぁ……」

 額から汗が浮き、その滴は重力に抗わず流れ、組み敷いた端正で蒼白い顔に落ちていった。自分でも何しているかわからなかった。師範の顔は気味が悪い程自分と同じ顔をしていたように思う。驚愕と憤怒、そしてしばらくの受容、諦念、と感情が移りゆく。私達は目を見開き、驚きの表情で上下で数分間相対した。彼女は変わらず綺麗だ。彼女は相の変わらずこの世でいちばん綺麗だ。泣きそうな位、綺麗だった。

「何を、」

 してるんですか。師範は極めて冷静を努めて口を開いた。私は自分の行動に自分で絶望してるい。今更止められない。私はその口を唇で塞ぎ、これ以上の言葉を封じた。んぅ、と空気が隙間から漏れ、それをまた塞ぐように顔の角度を変える。同時に細過ぎる腰のベルトを外し、か細い両腕を上に縛る。師範の頭に筋が浮き、怒りの罵声を私に浴びさせたが、自分の最悪な行動に対して自ら最悪と自覚する者に効果は無かった。寧ろ五月蝿いと感じ、誰かが来たら困るため舌を入れて彼女のそれと絡めて、声を殺させる。生暖かい。自分も初めてだったが、彼女も初めてだったのか、全身の強張りを感じた。萎縮した舌を無理やりに絡めてその柔い感触を楽しむ。お互いの舌の生温さが蕩けて中和されていく感覚がひどく気持ち良い。苦しそうな顔さえも背筋に感覚が走り、股にかけて興奮を感じてじわりと熱くなる。癖になるほど舌の感触が美味しい。絡めれば絡めるほど彼女の顔と舌がとろけていく。もはやがっつきすぎて無茶苦茶だった。彼女の視線が感覚にぼんやりとし出して、舌を元の位置に戻す気力なくだらしなく口から出、混じり合った唾液が糸を引く。甘い吐息が柔らかい唇から断続的に漏れ、私の顔に甘く吹きかかる。その見た事のない師範の扇情的な姿に痛くなる位に胸を抉られ、熱くなる。師範の怒りをよそに、私の師範への尊い感情が最高潮であった。

「はぁ…師範…師範……師範….っ!!」
 
 うわ言のように吐きながら隊服のボタンを外し、窮屈そうに締め付けられた豊満な乳房が露わになる。思いっきりその豊満な胸な顔を埋めて抱きしめる。

「カナ、ヲ……も、うっ、やめなさ、いっ…!! 許してあげますから」

 普段の私なら師範の言う事を従順に守っただろう。しかし、そうしなかった。最期の甘えと抵抗だった。甘ったれな私は師を不器用にも縛り付けた。あわよくば、性的にでも愛してさえしてくれれば、自死に近い死を思い留まるのではないかと戯けたことを考えた。
 勃ち上がった桃色の乳首に触れる。指の腹で周囲をなぞると、ビクリッと腕の中の華奢な身体が跳ねる。優しく先を摘むと、また跳ねて鳴いた。指で周囲を円を描くように触るとじれったそうに鳴く。舌で片方の乳首を舐めて、唇で挟み、優しく潰す。同時に片手で乳房を揉む。動かすたびに柔い快感に腰がびくびく震える。喘ぎを出すまいと師範は口を固く閉ざしたが、声が聞きたくなる。口の中に指を差し入れ、また乳首を潰したタイミングで指を口腔奥に挿れ、強制的に嬌声を吐かせる。

「はぁっ、ぁんっ!!」

 涙目で睨みをきかせて、私を睨むが欲情が高まるだけで逆効果だった。地道に舌で乳首を転がし、乳房を優しく揉んでいく。一度開くと簡単でされるがままにあえぎ声を漏れていく。師範は私の指を決して噛まない自信があった。優しいから。何だかんだ、私に甘いから。私のことを「家族として」愛しているから。

「あっ….あっ…あぁっ…」
 
 私はこれらのすべての行動に気分が高揚し、陶酔し、欲情した。私は彼女を家族以上の感情を持ち合わせていた。
 唇で口づけを交わしながら、師範の太腿の間に膝を差し入れる。膝頭で股間をぐっと
軽く押し込むと、ヒッと可愛いらしい声を出した。再び襲う新しい快感にまだ怖いらしい。

「師範、可愛い」
「カ、ナっ…ヲっ…あっ!!」

 そのまままた胸へと唇を寄せ、グリグリと股間を膝頭を押す。

「んっ、んぅ」

 弱い刺激の波がじれったいのか、腰が僅かに自分の膝に擦り付けてくる。それが嬉しくて首筋にキスして、甘噛みつく。

「あっ、ぐっ……!!」

 白い肩についた歯型に満足し、舐める。飼い犬になった気分だった。師範のお腹の肌を手のひらで触る。生暖かい感触にまだ生きているという実感を身に染みた。近い日に来る決戦の時が来ればこの暖かみが失われてしまうかもしれない。また自分も死ぬかもしれない。この瞬間も最初で最後だ。薄いお腹に唇を落とすと、じれったそうに師範は口を開いた。

「カナヲ….?」
「はい」
「あの、」
「はい?」

 口籠る師範に首を傾ける。膝頭を脚の間に緩く揺らすと自然と腰が擦り付ける動きをした。膝頭に布越しに湿りを感じる。膝の動きを止めても淫らにも擦り付ける動きは止まらない。師範を見ると、息を荒くさせ羞恥で顔が真っ赤になっていた。私は思わず口元が歪む。

「……師範、動かしてほしいですか?」

 こくり、と自分で止められない快感に耐えながら師範は首で答える。

「わかりました」

 下の隊服をゆっくり脱がし、青白いか細い太腿が露わになる。白い下着には透明な液で染みが滲んでいた。それもゆっくり滑らして脱がしていく。人差し指を一本、濡れた師範中に挿し入れる。すんなりと中は咥え、軽くキュッと収縮し指を迎え入れた。溶けそうなほど温かい。狭いそこは指一本で充分だった。

「あっ、あ、あぁっ」

 指を動かす途中、師範の動きを見逃さなかった。挿して、手を握る感覚で指の腹で壁を押す。押して、離して、場所を変え、押して、離すを繰り返す。一際震える急所を探し出していく。急所は一気に攻めてて陥落させる。

「あっ、あっ、あんっ、んんんっ!!」

 師範は前の突起を刺激しながら、奥の上壁を擦られるのに弱い。親指で突起を擦りながら、同時に壁を攻めたてる。師範の声が止まらなくなった。

「あんっ、あっ、あっ、あぁっ!!」

 攻めるたびに足がビクンビクンと震える。中はうねり出し、指をより奥へ迎えようと咀嚼しだす。その時師範の両脚に震えながらも力が入る。

「カナヲ、なにかっ、なにかがっ」

 耐えている顔が可愛すぎて唇を噛む。涙目で懇願する師範が新鮮で、私は優しくはにかんだ。師範がそれを見てほっとしたのも束の間、指を動かす。速く、的確に急所を狙ったそれは耐えがたい刺激だったようだ。首を振りながら、登り詰める強い感覚に恐怖し、師範は「止めて」と叫び、縋りながら喘いだ。奥を指で突いた瞬間、中が大きくうねり、指を締め付けた。一際高い嬌声を上げながら彼女は絶頂に達した。ビクッビクッと身体が痙攣する。きっと中は酷く肉壁を収縮して、絞り出しているだろう。それを感知する術は私にはない。私はそれだけでは気が済まず、無慈悲に奥を何度も何度も突く。がむしゃらだった。相手のことを考える暇もない。
 時間よ、進むな。止まれ。進むな、止まれ。この行為は何も意味がない。無意味どこれか、害だ。ただの本能に突き動かされた野性的な衝動。何も変わらない。決定した残酷な未来は変わらない。何も残せない。寧ろ失ったかもしれない。それだけ彼女の復讐の意志は強く、私は幼く弱かった。いっそ。

「ぁ….ああっ….あああっ!!」

───いっそ。いっそ孕めばいいのに。

 噴き出た愛液を舌で舐めとる。ピチャピチャと舌で水音が鳴る。その股間から鳴る音は効果的でさらにそこから次々と蜜が溢れ出てくる。犬になった気分だ。垂れる液を舌で舐めとると僅かに塩の味を感じた。人間は海で出来ていると彼女はよく言ったもので、確かにそうかもしれないと実感する。一滴たりとも溢さないように啜ると、敏感な突起の部分に鼻を擽ぐらせたようで一際大きな身体の跳ねを見せた。液が口につき、手で拭う。

 師範は私の腕の中で崩れ落ちた。私は強く強く抱きしめる。早い鼓動を感じとれるのが嬉しい。しかし、長い睫毛が開いた瞬間、のし掛かる遅れた罪悪感。

「ごめんなさい」
「……カナヲ」
「私は、師範を….死ぬなんて、思いたくなくて…。失うなんてっ。ただ、私は今までと同じで良くて。今でも幸せで。生きて、欲しくて。師範は違うかもしれませんが、私はっ、師範がっ…..生きる道を…」

 言いたいことは沢山あるけど、言葉足らずでしかも文法が無茶苦茶でまとまらない。もっと口が達者ならよかった。師範は優しかった。「カナヲ、あのね」と言葉を遮って、私の幼さの残した頬を小さな手で包む。師範は優しい顔で答えた。

「嬉しいです。気持ちよかったですよ」

 師範はそう言って、涙が渇いた眼のままただ私の為に笑顔を作って私を無条件に許した。嘘だ。本心ではない。私は直感的にそう思った。やってしまった。決してやってはいけないことをしてしまった。何かを犯した時は後から罪悪感が襲いかかるらしい。その師範の嘘の笑みに一気に罪悪感と情けなさと自分の未熟さと悔しさが胃から咽せ上がり、涙が込み上がってくた。

「ごめんね、カナヲ」

 幼き日、私は本能的に「胡蝶」の苗字を選ばなかった。だって、彼女は私にとって、昔から姉以上の感情を持ち合わせていたから。他人はこの師への恋慕を一時の青春のあやまちと言うだろう。だが、そうであるならば、今この瞬間のこの感情は一体どう説明するのだろうか。
 正直に言う。私はすべてを望まなかった。鬼在る世にすべての望みが叶うことは難しい。ただ、せめて私は師範の片羽根になりたかった。しのぶ姉さんにとってのカナエ姉さんの様になりたかった。それだけだった。

「私が鬼を弱らせるから、カナヲが首を斬ってとどめを刺してね」

 結局彼女の意志は変わらず予想通りの結末となった。鬼はいなくなったが、多くの犠牲の中に彼女が含まれた。長い冬が終え、フサアカシカが咲き誇り、ようやく春が訪れる。その黄色の花を見ると、どうもしのぶ姉さんの優しい笑顔を思い出させて切なくなる。最期まで鬼に囚われ続けて終えた運命。鬼殺隊になるということはそういうことの覚悟の上であるだろうが、それでも。
 それでも、私が片羽根になれれば、鬼に囚われ続けた師範の心を救えたのではないか、と鬼が去って子を産んだ今でも思うのだ。

END
 

(秘密の恋)

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